「皮」第7話

  • 2008/04/19(土) 03:25:23

先程まで頭にあった犬の患者やマーキングと包茎の関係は、私の意識から消えて
いった。
止めにきた看護婦や野次馬の仮性包茎は、もはや私の目には映らなかった。
包茎外科医としての私はそこにはいない。
自らの中に眠っていた縄張り意識を、抑えることができなかった。

あっという間に手術室一面に水溜まりができ、カルテや診察具を濡らした。
膀胱の容量を超えるかと思われた水分が出た頃、私は我に返った。
辺りを見回すと、いつもの仕事道具や、看護婦、患者が薄黄色に染まってたたずんでいた。

しばらく茫然としているうちに、私はあることに気付いた。
周囲にできた水溜まりには、ある種の異変があったのだ。

作・テツトミタ

「皮」第6話

  • 2008/04/02(水) 18:48:33

なめんな。
犬は叫んだ。
おい、困るわ、ちょっとちゃんとしろよ、お前医者だろ、おい。
ワン、チン、ワンワンチン、ワン、ワンチン。
私はもうやけになってワンチンワンチン叫んだ。
俺わざわざこっち来たんだよお前、何だよお前。
てめえワンチン言うなよ、ボケ。
私は引っ込みがつかなかった。
社会的地位も何もかも投げ捨てて叫んだ。

犬は呆れ顔で看護婦を呼んで、初診料だけ置いて去っていった。
そして、狂った私は手術室の周りにマーキングし始めた。

「皮」第5話

  • 2008/03/01(土) 11:41:43


母親が電話に出た。
「ワン?ワンワワワン?」
絶句した。
メールを送った友人からもほとんど返事はない。
たまに返ってくるのは、
「ワワワワン。ワンワン?」だの、
「ワンワワン。アオーン!」だの、だのだの。
「これは…まさか!」

私は意を決して、犬の前に座りなおし、話しかけた。
「ワン。ワンワン。
チン、チンワン。
ワンチン、ワン、チン、チンワン。」

作・テツトミタ

「皮」第4話

  • 2008/02/16(土) 18:17:21

しゃべれる。
この犬、しゃべれる。
すげえ。
マジすげえ。
えっ、ウソでしょ?
ちょっ、何、えっ、もう、何これ?
えっだって、人、犬、えっ、えっ?
私はとりあえず親戚、親友、中学時代の友人など、ありとあらゆる友達に電話しまくった。
つながらない人はメールのBCCで一斉送信した。
件名は「犬 しゃべれる ワンダフル」。
犬はその間ずっと、回転イスでおすわりしたままだ。

作:業務用菩薩

「皮」第3話

  • 2008/01/27(日) 02:10:38

うかつだった。
届いた写真に映っているそれは人間のアレではないことは明らかだった。
「とりあえず、診察室にお通ししなさい。」

回転イスに座っている姿は完全に犬だ。
おすわりの姿勢から患部がのぞいている。
おそらく雑種だろう。
鼻が濡れていることと尻尾をパタパタ振っていることから、良好な健康状態がう
かがえる。
とまあ、獣医でもない私にできる診察といえばこの程度だ。
「一応皆さんにお聞きしてるんですが、今回手術を受けようと思ったのはどうい
った理由で…」
彼は苦笑すると、細々と語りはじめた。
「理由ですか…。
マーキングができないんです。
皮をかぶっていると思った通りにおしっこが飛ばないんですよ。」
「なるほど…。」
私は続ける言葉を思い浮かばなかった。

作・テツトミタ